元禄二年(1689)三月、精神の旅人といわれる芭蕉は江戸を発ち、日数百五十日の奥の細道への旅に出発しました。
それから五年後の元禄七年、わが国紀行文の最高傑作といわれる「奥の細道」が完成しました。
江戸は深川より岐阜は大垣への旅程六百里にわたる旅のなかでもみちのく山形の尾花沢では十泊もしており、有名な「閑さや岩にしみ入る蝉の声」の句をはじめ数多くの名句を生んだのです。
芭蕉の俳句には、日本人が日ごろ忘れている魂の故郷があるといわれています。芭蕉は「幻住庵記」に次のように記しています。
「あてどもない旅心に身をさいなまれ花鳥風月に心を奪われて、それがなんとなく生活の糧とさえなったので俳諧の道一筋を歩んでしまった……。」とあります。
芭蕉の句にしみる魂の故郷とは、旅心という精神の渇きであり、自然の美しさを求める俳諧の求道者精神にあったようです。
みちのく芭蕉庵も魂の故郷である山形の花鳥風月を心をこめてお伝えしてまいります。